新型コロナウイルス感染症の影響によって鉄道事業者の経営状態が悪化しています。 この状況を受け、収益率の改善やラッシュ時の混雑緩和のため「変動制運賃」の導入が議論されています。
変動制運賃とは?
「変動制運賃」とは「ダイナミックプライシング」とも呼ばれ、時期や時間によって料金が変動するシステムのこと。ホテルや飛行機などで、すでに採用されています。
鉄道への変動制運賃の導入には課題も
交通機関では飛行機や高速バスなどですでに採用されている「変動制運賃」ですが、鉄道運賃への導入には課題もあります。
磁気券利用者への対応
課題の一つが、磁気券を利用する乗客の扱いです。 Suica®などのICカードであれば、改札通過時刻によって料金を変えることが可能ですが、磁気券ではそうもいきません。オフピーク価格で切符を購入したとしても、何らかの事情でラッシュ時間帯に乗車することになってしまう場合もあるでしょう。そのような場合、変動制運賃では精算などが必要となり、余計な混乱を招きかねません。
長距離利用客への対応
長距離利用客への運賃の取り扱いも課題です。 特に全国にネットワークを持つJRグループの路線では、発売時にどの価格で販売するのか、ラッシュ時に都心を通過する旅客の運賃をどうするのかが大きな問題となってきます。
どうすればいいのか?
それでは、これらの課題を解決するにはどうすればよいのでしょうか。いくつか案を挙げてみたいと思います。
案1 ベースとなる運賃の値上げ
ベースとなる運賃を値上げし、オフピーク時のICカード利用者の運賃を割り引くというものです。また、磁気券利用者への変動制運賃の適用は難しいと考え、磁気券利用者にはオフピーク時でもラッシュ時と同じベース価格を適用することになります。
案2 短距離・長距離で運賃体系を分ける
短距離の場合は案1を、長距離の場合は現行の制度を適用するものです。しかしこの場合、101km~の運賃のほうが安いなどの逆転現象が起きる可能性があります。
案3 ポイント還元する
これはすでにいくつかの鉄道事業者で行われています。オフピーク時間帯にICカードで利用した乗客にポイントを付与するものです。JR東日本が展開する「オフピークポイントサービス」などがこれにあたります。
案4 時差定期券の発売
オフピーク時間帯の利用を前提とした「時差定期券」を発売する案です。通常の定期券よりも安価な価格設定とし、ラッシュ時間帯に利用した場合はカード残高から差額分を差し引きます。
時差定期券は効果的では?
いくつか案を挙げてみましたが、中でも時差定期券の発売は、特に効果が見込めるのではないかと考えられます。
現在一部で行われているポイント還元では、還元を受けるのは利用者であって、企業側には特にメリットがありません。しかし時差定期券であれば発売価格自体が通常の定期券と比較して安価になるため、企業側にも経費削減などといったメリットがあります。そのため浸透しやすく、時差通勤の促進にもつながるのではないかと考えられます。
今後の動向に注目
実際に変動制運賃を導入するとなれば、案1、3、4の併用といった形になるかもしれませんし、全く違う形になるかもしれません。少なくとも変動制運賃は、これまでの日本の鉄道運賃の常識を覆すような料金体系ですから、導入は一筋縄ではいかないでしょう。今後の鉄道事業者各社の動向を注視していく必要がありそうです。
(※Suicaは、東日本旅客鉄道株式会社の登録商標です。)
この記事の作成にあたって、ご協力いただきました鉄道界を語る会メンバーの皆様に心より感謝申し上げます。
コメント